Medprompt とは
「Medprompt」とは、Microsoft Researchによって開発された新しいプロンプト戦略です。この戦略は、特に医療分野において、一般的な基盤モデル(例えばGPT-4)を特定の専門家の能力を引き出すために使用されます。
Medpromptの手法には、以下のアプローチが含まれています。
- コンテキスト内学習
- 思考の連鎖
- アンサンブル
これらの技術を用いることで、モデルは特定の問題に対してより適切で、論理的な回答を生成することが期待されます。例えば、医療関連の質問に対して、関連する例や一歩ずつの推論を含むプロンプトを与えることにより、より正確な回答が得られる可能性があります。
Microsoft Researchの研究では、Medpromptを使用したGPT-4は、医療の問題に対して90%以上の正答率を達成し、特定の医療アプリケーション用に微調整されたモデルよりも優れた結果を示しました。
これは、プロンプトエンジニアリングだけで、一般的な基盤モデルを特定の専門分野における専門家に変換する可能性を示しています。
この研究は、一般的な基盤モデルのトレーニングをさらに深く探究し、専門的な更新を行うことなく、多様な専門分野での応用を拡張することの価値を示しています。
要するに、Medpromptはプロンプトエンジニアリングの進化形であり、特定のドメインで高度な専門知識を引き出すために、一般的な言語モデルの機能を最大限に活用することを目指しています。
手法1:コンテキスト内学習
「コンテキスト内学習(In-context Learning)」とは、人工知能(AI)が新しい情報を学習する方法の一つで、特に大規模な言語モデルにおいて重要です。
このアプローチでは、モデルに与えられるプロンプト(指示や質問)に、関連する情報や例を含めることにより、モデルが特定の文脈やトピックについてより正確に理解し、回答することができるようになります。
プロンプトの例
たとえば、日本の料理に関する質問をする場合、以下のようなプロンプトを使用することができます。
質問: 日本の代表的な朝食は何ですか?
回答: 日本の代表的な朝食には、ごはん、味噌汁、焼き魚、納豆、漬物などがあります。
質問: 寿司はどのようにして作られますか?
回答: 寿司は、酢飯と新鮮な魚介類を使って作られ、巻き寿司、にぎり寿司、散らし寿司など様々な種類があります。
質問: 天ぷらはどのようにして作られますか?
このプロンプトには、日本の料理に関する特定の情報が含まれており、AIはこの情報を基にして関連する質問に答えることができます。
そのようにすることで、「天ぷらはどのようにして作られますか?」という質問に対しても、これらの情報を参考にして、より精度の高い回答を生成することが期待されます。
コンテキスト内学習の利点
関連性の高い回答:コンテキスト内学習を用いることで、AIは与えられた情報を基にして、より関連性の高い、精度の高い回答を生成することができます。
柔軟性:様々なトピックや文脈に応じて、プロンプトを調整することで、AIの応答の精度を向上させることが可能です。
新しい知識の統合:AIはプロンプトに含まれる新しい情報を統合し、それを基にして回答を生成することができます。
手法2:思考の連鎖
「思考の連鎖(Chain of Thought)」は、人工知能(AI)が複雑な問題を解決する際に、段階的な推論や論理的なステップをたどる方法です。
このアプローチでは、AIが問題を理解し、解決策に至るまでの過程を明示的に表現します。これにより、AIの回答がどのように導かれたかが理解しやすくなり、より複雑な問題に対する信頼性の高い解答を生成することが可能になります。
プロンプトの例
たとえば、日本の高齢化社会の影響に関する質問をする場合、以下のようなプロンプトを使用することができます。
質問: 江戸時代の日本はどのような政治体制でしたか?
回答のプロセス:
1. 江戸時代は、1603年から1868年まで続いた日本の歴史の一時期です。
2. この時代は、徳川家が幕府として日本を統治していた時期であり、幕府体制と呼ばれます。
3. 幕府は、将軍が最高権力者として全国の大名に命令を下す形式をとっていました。
4. この体制の下では、地方の大名は将軍に忠誠を誓い、中央集権的な政治が行われていました。
最終回答: 江戸時代の日本は幕府体制による政治が行われており、将軍が最高権力者として統治していました。
質問: 日本の高齢化社会の影響は何ですか?ステップバイステップで論理的な推論過程を示しながら回答してください。
思考の連鎖の利点
透明性:AIの回答プロセスが明示されるため、どのようにしてその結論に至ったかが理解しやすくなります。
信頼性:段階的な推論により、回答の妥当性が高まり、信頼性のある情報を提供することができます。
複雑な問題解決:より複雑な問題や抽象的な質問に対しても、段階的なアプローチにより適切な回答を導くことが可能になります。
手法3:アンサンブル
「アンサンブル」は、複数のモデルや手法を組み合わせて、単一のモデルよりも優れた性能を得る手法です。
この方法では、異なるモデルがそれぞれ異なる視点や特徴を捉えることにより、全体としてより正確で堅牢な結果が得られることを目指します。特に、人工知能や機械学習の分野で広く用いられています。
プロンプトの例
例えば、日本の観光地に関する最適な訪問時期を問い合わせる場合、以下のようなアンサンブルのアプローチが考えられます。
質問: 京都の紅葉が最も美しい時期はいつですか?
モデルAの回答: 11月中旬から12月初旬です。
モデルBの回答: 11月の終わりから12月の始めにかけてです。
モデルCの回答: 10月後半から11月中旬です。
これらの回答を集約することにより、アンサンブルとしての最終的な結論が導かれます。この場合、多くのモデルが11月中旬から12月初旬という時期を指摘しているため、これが最も信頼性の高い答えとなる可能性があります。
アンサンブルの利点
精度の向上:複数のモデルの予測を組み合わせることで、個々のモデルの不確実性やバイアスを減らし、全体的な精度を向上させることができます。
堅牢性:異なる種類のモデルを使用することで、特定のタイプのエラーに対して堅牢な結果を得ることができます。
汎用性:異なるデータセットや条件に対しても、安定した性能を発揮することが期待されます。
内部アンサンブル
しかし、一般人が複数のモデルを使用することは現実的ではありません。よって、アンサンブル手法を一つのモデル、例えばChatGPTのような単一の大規模言語モデル内で使用する方法もあります。
これは一般的に「内部アンサンブル」や「仮想アンサンブル」と呼ばれることがあります。
異なるプロンプトの使用
- 単一モデルに対して、異なるプロンプトや質問スタイルを用いることで、異なる視点や解答を引き出す。
- 例えば、問題を解決するための様々なアプローチを提示し、それぞれのアプローチから得られる回答を比較検討する。
異なる時間や文脈に基づく回答
- 同じ問題に対して、時間や文脈を変えて質問し、それぞれの回答を集約する。
- 例えば、現在の状況と過去の事例を比較して問い合わせる。
仮想的な多様な視点の採用
- モデルに異なるキャラクターや専門家の視点を仮想的に取らせ、その視点からの回答を求める。
- 例えば、ある問題について経済学者、歴史学者、科学者の視点からそれぞれ回答を求める。
プロンプトの例 1: 日本の将来のエネルギー戦略
質問: 日本の将来のエネルギー戦略にはどのような選択肢がありますか?
プロンプトA: 経済学者の視点から、日本のエネルギー戦略のコストと利益を分析してください。
プロンプトB: 環境科学者の視点から、日本のエネルギー戦略が環境に与える影響を評価してください。
プロンプトC: 政策立案者の視点から、日本のエネルギー安全保障と自立性を考慮した戦略を検討してください。
プロンプトの例 2: 京都観光の最適計画
質問: 京都への3日間の旅行計画はどのように立てるべきですか?
プロンプトA: 歴史愛好家の視点から、京都の伝統的な名所を巡る旅行計画を提案してください。
プロンプトB: グルメ旅行者の視点から、京都の食文化を楽しむ旅行計画を提案してください。
プロンプトC: アート愛好家の視点から、京都の美術館やアートスポットを訪れる旅行計画を提案してください。
これらの例では、異なる視点や専門分野からの回答を組み合わせることで、より包括的でバランスの取れた解答を得ることを目指しています。
アンサンブルのアプローチは、複数の視点を通じて問題に対する深い理解を促し、より総合的な答えを導くのに役立ちます。
内部アンサンブルの注意点
- 多様性の欠如:単一モデル内でのアンサンブルは、異なるモデル間の結果の多様性には及ばない可能性がある。
- モデルの限界:単一モデルの知識や理解能力に基づいているため、そのモデルの制限が結果に反映される。
- 慎重な解釈が必要:異なるアプローチから得られた回答は、それぞれ異なる前提や限界を持つことを理解し、総合的な判断には慎重な検討が必要。
このような内部アンサンブルのアプローチは、単一モデルの機能を最大限活用し、複数の視点や解釈を得るための有効な手段となります。
一方で、従来の複数の独立したモデルを組み合わせるアンサンブル手法とは根本的に異なるアプローチであることを理解することも重要になります。
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